愛とは…美月

日々、死亡訪問でお客様宅に伺うと、故人様がご自宅にお帰りになっていることもある。

最近では病院で亡くなられた方のご遺体は、家が狭いから、マンションだから他の住人に迷惑になる、近所に知られたくない・・・などの理由で、葬儀場に搬送し安置されるケースも増えているよね。

生前最期の願いとして、「自宅に帰りたい」と希望されていた場合、家族はその願いを受け入れることになるけれど、以前は大変だろうなぁ・・・偉いなぁ〜と他人事でしかなかった。

本日、「無言の帰宅」となったご主人様に長年の感謝を申し上げながら、奥様から生前のご主人様の暮らしぶりを聞いていた。

ご主人様の部屋に布団は敷かれ、愛用のテレビから朝の情報番組が流れていた。

枕元には新聞が置かれ、ご主人様の好物が枕飾りいっぱいに並べられていたよ。

お気に入りのスーツを着たご主人様は、旅立ちの朝を静かに過ごしているようだった。

最近では白装束に三角頭巾はやらない人も多くなったみたいだけど、
お化け=白装束=「恨めしやぁ~」・・・子供ながらにあの姿が死人そのもので怖かったのだろうなぁ・・。

テレビと新聞を見ながら、奥様自慢の手料理を肴に大好きな日本酒を楽しむ生活だったと聞いた。

特に煮物が好きで、毎日、品を変え、野菜中心の食生活にご主人は満足されていたようだけど、
仕事を定年退職してからは、元同僚に誘われても出かけることはなく、奥様とのんびり過ごす毎日を何より愛されていたらしい。

何気ない日常でありながら、その生活にマンネリ化が感じられなかったのは、
ご主人様の穏やかなお顔が幸せだった人生を語り掛けて来たからかもしれない。

奥様は、梅干し、味噌、漬物と何でもご自分で作られる料理上手な方で、
料理を食べさせてもらわなくても、入れて戴いたお茶を一口飲んだだけで料理の腕前がわかるほど舌の肥えた人だとわかった。

「お料理がお好きなのですか?」と窺ったところ、ご主人が市販の物を嫌うからだと少々力んで話してくれたけど、
「何でも喜んで食べてくれる人が居なくなると作る張り合いがなくなるわ・・・」と言った後に言葉は続かなかった。

昨晩は、ご主人の隣に布団を敷いて眠ったそうです。

子供達が巣立ってから夫婦二人暮らしだったけど、古いマンションのベランダから見る景色は結婚した当初と変わらず、いつも輝いていたと言っていた。

「この人に出逢えて本当によかった」と奥様がいうと、まるでご主人様が頷いたかのように、壁掛け時計がポンポンと優しく10時を告げた。

いつも二人で散歩に出かける時間・・・。

ご遺体となっても故人にとって思い出深きご自宅で、最期の時を二人っきりで過ごせるお別れもいいかもしれないと思った。

お手続きを終え、エレベーターに乗ると先生の顔が浮かんできた。

愛する人のおかげで、今日も私は笑っている。

そして、こんな私でも誰かのお役立てればよいとさえ思える。

『意欲と愛は偉大な行為にみちびく両翼である』とゲーテは言ったけど、愛とは偉大であり、恐ろしいものだね。

美月





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プロフィール

不良老人カップル

Author:不良老人カップル
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(♂) 紅殻格子(べんがらごうし)
1962年8月23日生まれ。
某大手企業に勤めながら官能小説を雑誌に発表する兼業作家。ブログ『妄想の座敷牢』を主宰するも、2012年、妻を亡くし、また自身も食道癌に罹り、文筆活動をしばらく停止していた。

(♀) 美月
1962年8月23日生まれ。
3人の子供と夫を持ちながら家業の役員を務める兼業主婦。ブログ『灰になるまで恋を』を主宰。 偏屈な紅殻格子と10年に及ぶ愛人関係を続けられる自身もまた偏屈で変わり者。
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