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新連載スタートのお知らせ

★ お知らせ ★

久しぶりの小説アップです。
「妄想の座敷牢」にて新連載 「人外境の花嫁」 をスタートさせました。

     
人外境の花嫁

官能小説家、降矢木士朗は語った。
『人類原始の性的乱交は共産主義の出発点なんだよ』
異界の民、乱姦、性宴の邪教、そして驚愕の最終章・・・

満を持して紅殻格子が放つ異色官能小説。
緩み切った官能小説界を戦慄させる本格官能作品です。
最後までお楽しみ下さい。 
    

妄想の座敷牢6 
「妄想の座敷牢」〜紅殻格子の世界〜へ進む

紅殻格子の日記(181)  『野良猫』 第七章

紅殻格子の日記(181)  『野良猫』 第七章

そこに藤野勇樹がいた。
財閥系銀行の独身エリートと言う触れ込みに、参加した女達は色めき立った。

女氏無くして玉の輿に乗る。
男氏無くして玉の汗をかく。

時々職場に現れる信用金庫の行員しか知らない麻美も、メガバンクのエリートがどんな人物なのか、玉の輿に乗るかは別として興味があった。

だがその正体は、ぼんやりとして冴えない中年男だった。
後で聴いたところでは、知り合いから人数合わせで呼び出されたらしいが、近寄る女達を無視して終始憮然とした表情で酒を飲んでいた。

それが世間を馬鹿にしたような態度に見えた麻美は、反抗的な野良猫の野生を蘇らせて血統書つきのペルシャ猫に噛みついた。

「ちょっと、あんた何様のつもりよ。さっきから見ていたら、一人で黙りこくって場の雰囲気をぶち壊しているんじゃない?」

「・・はあ?」

「はあ、じゃないわよ。あんたエリートなんでしょ? だったらもっと周囲に気を遣いなさいよ。ほら、あの娘のグラスが空いているでしょう」

「す、済みません」

勇樹は慌ててワインを持って隣に座る女性に注いだ。

「いい? 実るほど頭を垂れる稲穂かな、と言うでしょう。偉い人ほど謙虚に周囲を気遣わなければいけないのよ」

麻美は事務所の親方から飲み会で説経された話をうろ覚えで語った。

「はあ・・なるほど」

「なるほどじゃないわよ。銀行なんか庶民が汗を流して稼いだお金を集めて、それをまた住宅ローンにして庶民に貸すマッチポンプ高利貸しでしょう?」

「マッチポンプ?」

「エリートはそんなことも知らないの?」

マッチポンプとは、片手のマッチで火をつけて、もう片手のポンプで火を消す、つまり偽善的な自作自演行為を意味する。
これも事務所の親方から聞いた死語だった。

持ち前の酒癖の悪さが更に麻美を凶暴にした。

「あたし等庶民の気持ちがわかりもしないのに、何でもわかっているような高飛車目線は止めなよ」

その席で麻美は滾々と勇樹に説教してやった。
勇樹はそんな麻美を怒ることもなく、メモを取り出しそうに聞き入っていた。

つづく…



紅殻格子の日記(173)  『野良猫』 第六章

紅殻格子の日記(173)  『野良猫』 第六章

それは七年前のことになる。

久しぶりに街で再会した中学校の同級生からの誘いを断れず、麻美は週末にセッティングされた合コンに出るはめに陥った。

昔から他人とは群れず、友達など吐き気がするほど嫌いな麻美だったが、高校を中退した自分が正業に就いていることを、少しは自慢したい気持ちがあったのかもしれない。

処女は十五歳の春に捨てた。

相手は碌でもない暴走族の男だった。

グレて男達の家で寝泊まりするようになったが、今で言うバツイチだった母親は、それをいいことに、年甲斐もなく男をボロアパートへ連れ込むようになった。

母親はキャバレーのホステスで、時折麻美が家に戻ると、だらしない下着姿のまま男と酔い潰れていた。

路地裏のあばら家からも追い出された野良猫、それが麻美の少女時代だった。

男達に餌を貰うため、麻美はまだ熟し切らない裸身を差し出した。プライドも抵抗もなかった。

戦後、夫を失った未亡人が生きるために、米兵のオンリーに身を落としたのと変わらない。

それが野良猫の知恵と思った。

だが二十歳の頃、ヤクザな男にソープランドへ身売りされそうになり、初めて軽蔑する母親と同じ穴の狢であることに気づいた。

(本当の野良猫なら・・)

それは自分の力で生きられる力をつけることだった。

麻美は小さな工務店の事務員として働き始めた。

母親から独立して、アパートの部屋を借りて新しい生活を始めた。

帳簿のつけ方も知らなかった麻美は、会社が終わってから自費で簿記学校に通って勉強した。

男関係は一切裁った。初めて学ぶ喜びを麻美は知った。

すると経理の仕事が面白くなり、社長の信頼を少しずつ得られるようになっていった。

(私を信じてくれる人がいる)

それが自堕落だった自分には誇らしく、合コンに参加する勇気を麻美に与えたのかもしれない。

つづく…

紅殻格子の日記(170)  『野良猫』 第五章

紅殻格子の日記(170)  『野良猫』 第五章

麻美が自宅のマンションに着くと、珍しく夫の藤野勇樹が既に帰宅していた。

勇樹は三十七歳、財閥系銀行の本店営業部で上席調査役を務めている。

「遅かったじゃないか」

「うん、昔の女友達と久しぶりに女子会で盛り上がってね。もう夕食は済ませたの?」

「ああ、帰る途中、駅前の立ち食い蕎麦屋で済ませてきた」

「ごめんなさい」

「構わないよ。明日は取引先で資金調達のコンペがあるから、書斎に籠ってプレゼンの練習をしなければならない」

「・・そう」

「お前も疲れただろうから早く寝なさい」

そう言うと勇樹は、自分の寝室兼書斎のドアをバタンと閉めた。

夫婦の関係は冷え切っていた。

過労死しないのが不思議なほど、勇樹の帰宅は毎晩十一時を過ぎていた。
たまに早く帰っても話すのは仕事のことばかりで、今夜のようにテレビも碌に観ず、書斎に籠ってしまうことが多かった。

勿論、休日は得意先のゴルフ接待。

エリート銀行員と一緒になった宿命と言えばそれまでだが、贅沢な生活ができる賃金も立派なマンションも、寂しさの代償としては酷くみすぼらしく思えた。

これで子供でもいれば気も紛れるのだろうが、仕事で疲れているのか最近は寝室を共にすることもない。

(何でこんな男と結婚したのだろう?)

メガバンクのエリートで出世街道を突っ走る勇樹と、工務店の事務員として働いていた麻美とでは、そもそも出逢ってしまったこと自体が不幸だったのかもしれない。

東京大学を卒業した勇樹とグレて高校を中退した麻美との間には、普段道ですれ違っても接触できないように、生い立ちと言う境界がお互いを守っているはずだった。

ところが出逢った刹那、麻美は不幸になることを知りつつ、目に見えぬ深い境界線を愚かにも踏み越えてしまったのだった。

つづく…

紅殻格子の日記(167)  『野良猫』 第四章

紅殻格子の日記(167)  『野良猫』 第四章

艶っぽい瞳で麻美に見つめられた男は、青ざめた顔をして頻りに時計を気にした。

「さて、そろそろ帰らないといけないな」

話を早く切り上げたい男は、麻美を無視してあたふたと身支度を整え始めた。

もうこの男は二度と麻美に近づこうとはしないだろう。
もちろん麻美自身がそう仕向けたのだが、器が小鉢ほどの男達への苛立ちが改めてこみ上げてきた。

場末のラブホテル前で別れた麻美は、そそくさと家路へ急ぐ男の後ろ姿を鼻で笑った。

(男なんて皆この程度・・もうつまらない男は懲り懲りだわ)

客引きが屯する歓楽街の通りを折れて、麻美は大きな公園の中を速足で駅へ向かった。

ライトアップされた桜並木が、その淡い花弁を闇夜の空に散らしている。

麻美は歩みを止めた。

蒔絵の図柄にも似た春の切ない風情が、荒んだ麻美の心をゆっくりと蕩かしていく。

(でも・・野良猫だって、いつかはきっと愛するご主人様と巡り合えるわよね)

三十余年待ち焦がれる白馬の王子様を夢想して、麻美は少し強張った表情を緩めた。

桜の名所とうたわれるだけあって、公園の遊歩道には、桜の儚さとは無縁な人々が宴会を催していた。

「おう姐ちゃん、いい女だな。こっちへ来て一緒に呑まないか!」

「いい身体をしているなあ・・一人でこんなところを歩いているようじゃ、今夜は寂しく男旱ってところかな?」

へべれけに酔った中年男達が、コートの裾をはためかして歩く麻美に声をかけてくる。

麻美は再び切れた。

「ふざけんな、一昨日来やがれっ!」

麻美は威勢のいい啖呵を切ると、ヒールの靴で思い切り公園のゴミ箱を蹴りあげた。

(どいつもこいつも・・)

潔い桜の花弁一枚にもなれない男達に、麻美は癇癪を起して駅へと速足で向かった。

つづく…

プロフィール

不良老人カップル

Author:不良老人カップル
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(♂) 紅殻格子(べんがらごうし)
1962年8月23日生まれ。
某大手企業に勤めながら官能小説を雑誌に発表する兼業作家。ブログ『妄想の座敷牢』を主宰するも、2012年、妻を亡くし、また自身も食道癌に罹り、文筆活動をしばらく停止していた。

(♀) 美月
1962年8月23日生まれ。
3人の子供と夫を持ちながら家業の役員を務める兼業主婦。ブログ『灰になるまで恋を』を主宰。 偏屈な紅殻格子と10年に及ぶ愛人関係を続けられる自身もまた偏屈で変わり者。
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